イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.14 ヴェネツィア貴族に起源をもつ
ワイナリーが醸す地ブドウの味

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、ヴェネト州の「オルネッラ・モロン」が手がける「ラボーソ・リゼルヴァ」をご紹介します。

ラボーソ・リゼルヴァ その土地で栽培される地域固有のブドウ品種を在来品種や土着品種と呼びますが、イタリアにはいくつあるかご存じですか?

 じつは、その数約2000種と推定されており、フランスでは100種程度であることから考えても、驚くべき数ですよね。もっとも、日常よく飲まれるワインの品種はもっと限られますが、それでも20のすべての州でワインが造られ、DOC、DOCGに格付けられる産地指定ワインだけでも400を超えています。

ヴェネツィアイメージ なぜ、イタリアワインが多様性に富んでいるのかというと、まず、さまざまな民族からブドウが持ち込まれたという歴史的背景があります。紀元前8世紀ごろからギリシャ人が南部にブドウを持ち込み、中部ではエトルリア人が紀元前からワイン造りの発展を促しました。一方、北部イタリアには、国境を接するフランスやオーストリアから多くの品種が運ばれたそうです。

 国土が南北に長いため気候が多様で、山地、平野、丘陵地など地形が変化に富んでいることも、地域独自の品種が発展する背景となりました。さらに、1861年まで統一国家でなかったため、各地で特色ある文化が形成され、そのことがワイン造りの好みやアプローチの違いにも大きく影響しています。気候風土に沿った地域色ゆたかな味わいが、イタリアワインの大きな魅力ですね。

ファミリー さて、今回ご紹介する「ラボーソ」は、ヴェネト州東部の在来品種です。造り手のオルネッラ・モロンのワイナリーは、カンポ・ディ・ピエトラ・ディ・サルガレーダという村にあり、その起源はヴェネツィアの名門貴族ジュスティニアン家が1652年に建設した「ヴィッラ・ジュスティニアン」までさかのぼり、現在もその建物が保存されています。

 ラベルのイラストも、どことなく優雅で、ジョルジョーネやティツィアーノのヴィーナスの表情を思わせます。これは美術好きな私の私見ですが、16世紀から17世紀にかけて花開いたヴェネツィア派の画家たちと、同時期に地元の有名貴族が起こしたワイナリーを重ね合わせてみると、イメージがふくらみます。

樹とオーナー女性 ブドウ畑は昔からの銘醸地で、ピアーヴェ川からの沖積平野として鉄分を多く含む石灰質の土壌、アルプス山脈からの風とアドリア海からの風が出会う穏やかな地中海性気候がラボーソの特性を引き出し、まろやかで力強いタンニンをもつワインが生まれます。樽熟成のべ36カ月、瓶内熟成12カ月と、非常に長い熟成期間を経た「リゼルヴァ」のタイプです。

 深みのあるダークチェリーレッドの色調で、グラスに鼻を近づけると、アルコールの温かみが伝わってきます。プルーンやカシスなど黒系果実、ドライにしたバラの花びら、シナモン、クローヴといった輪郭のはっきりした香りに、森林のような心落ち着く香りが入り混じります。

料理とワイン 果実味豊かなアタックで、密度の高いタンニン、ビターココアのような甘く苦い風味も感じられる構成のしっかりしたワイン。ここは素直なペアリングでステーキを合わせてみることにしました。選んだのは、モモの内側の「シンシン」と呼ばれる部位で、肉質がきめ細かく、ほどよくサシの入った赤身です。ワインにいきいきとした酸があるので、まったりとしすぎずピリッと後味を引き締め、お肉の脂をきれいにリセットしつつ、次のひと口へ誘ってくれます。

 全体の調和が素晴らしいワインですが、飲み手に媚びるような「調和」ではなく、どこかに野趣を秘めた味わいに、名演奏に偶然居合わせたときようなビビットな感動を覚えます。それが、イタリア在来品種の個性であり、その土地の人たちが受け継いできたワイン造りの技術の賜物ではないかと思っています。


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