ワイナリー通信 Vol.15〜トスカーナ州 Tarazona Miriam 2025〜

古代ワインを現代に甦らせた25年の軌跡

イタリアワイン文化の中心地、トスカーナ州

イタリア中部に位置し、世界的にも有名なワイン産地のひとつです。ワインの歴史は古く、紀元前8世紀頃のエトルリアの時代までさかのぼります。中世の修道院や貴族による栽培、ルネサンス期の文化的な発展を経て、18世紀にはメディチ家のコジモ3世が世界で初めてワイン産地の線引きを行い、キアンティ地域を含めた4産地の境界を明確にしました。

トスカーナの魅力は、古い伝統を守りながら常に進化してきた点にあります。「キアンティ・クラシコ」や「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」といった伝統派ワインに加え、1970年代に登場した国際品種をブレンドした「スーパートスカーナ」が、イタリアワインの評価を一気に世界レベルへ引き上げました。

今月はそんなトスカーナ州において、古代エトルリア人の醸造方法を現代に甦らせ、その業績がユネスコからも認められたワイナリー「Tarazona Miriam(タラソナ ミリアム)」をご紹介します。

Tarazona Miriamについて

トスカーナ州アレッツォにあるTarazona Miriamを運営するのはFrancesco mondini(フランチェスコ・モンディーニ)氏です。元々は別の仕事をしていたモンディーニ氏ですが、父と祖父から受け継いだブドウ畑と栽培の知識のもと、「エトルリアの醸造方法でワインを造る」という壮大なプロジェクトを2000年にスタートさせました。

非常に古いブドウ畑を所有しており、中には祖父が70年前に植えたものや、樹齢100年以上のブドウの樹もあります。サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、チリエージョロ、アルバーナ、トレッビアーノ、そしてマルヴァジーアといったブドウが、完璧な自然のバランスの中で栽培されています。樹齢350-400年にもなるオリーブの木も栽培し、ブドウの樹とオリーブの木の列を交互に配置するという先祖伝来の手法を取り入れています。

そもそもエトルリアと同じ製法とはどういったものなのでしょうか。

醸造にテラコッタ製の甕(かめ)を使用するということ、また自然に発酵させることが大きな特徴です。この古代製法を現代に甦らせるというプロジェクトは、生半可なものではありませんでした。誰も見向きもしない中、モンディーニ氏は研究を進めます。

専門家との協働 
ローマのヴィラ・ジュリア博物館のマウリツィオ・ペレグリーニ教授をはじめとする考古学者、土壌の特性を理解するための地質学者、有機栽培とバイオダイナミック農法を可能にした農学者、そして醸造学者のグイド・ファトゥッキ氏が研究チームに加わりました。

甕(かめ)の研究
ワインを寝かせ熟成させる甕の研究と設計に多くの時間を費やしました。

断熱材の追求
ろう(蝋)、樹脂、その他の天然成分を主成分とする壺内部の断熱材の研究も行われ、モンディーニ氏はそのために養蜂も始めました。

製造過程

製造過程

▲ 地下約3メートルに甕を埋め、ワインを熟成する。どこに埋めたかわかるように、目印がついている。

▲ 蓋の部分に蜜蝋を使用

製造過程

▲ 蜜蝋を作るため、養蜂も行っている

長い努力と探究の末、転機が訪れます。2013年12月、ジョージアで甕を使ったワイン醸造(クヴェヴリ)がユネスコ無形文化遺産に登録されたのです。
これにより、エトルリア式醸造法による最初のワインを生産するために必要なすべての認可を取得。イタリアの保健所から販売許可が下り、プロジェクト開始から15年の月日を経た2015年に、ついに最初のボトルがリリースされました。

2019年、ユネスコと欧州共同体主催の「ラ・ファッブリカ・ネル・パエサッジョ」(※)でモンディーニ氏は最優秀賞を受賞しました。受賞理由は「自然景観と文化的景観の保護と向上、地域性を尊重し、高い美的品質の介入を保証し、文化的かつ生産性の高い方法で職場を構築する能力を示したこと。生態系のバランスにも細心の注意が払われ、詩情豊かで記憶に残る風景へと昇華されている」というものでした。

モンディーニ氏は世界遺産への登録に向け、現在も挑戦をし続けています。

※イタリアのユネスコ協会連盟(FICLU)が主催する国際コンクール
「企業活動の拠点(工場や事業所など)の建設や改修において、環境と景観に対する特別な配慮を示した」企業や団体を表彰し、奨励することを目的としている。応募が180件ほどあり、城の改修や遺跡の発掘などの活動がエントリーされた中、モンディーニ氏の活動が最優秀賞を受賞した。

認定証

ワイナリーへのインタビュー

今年の夏、モンディーニ氏が来日し、弊社オフィスでワインや活動についてお話を聞きました。


Q. エトルリアのワインを造ろうと思ったきっかけはなんですか?

A. 私の住む地域はエトルリア文明の12の都市のうちの1つでした。2000年に行われたエトルリアのお祭りでワインが紹介されていたので飲んでみたのですが、それが驚くほど不味かったのです。

「こんなに不味いわけがない」と思い、スタッフに聞くと、エトルリア本来の造り方をしておらず、ちゃんとしたワインの造り手が造ったものではないことが分かりました。それならば、あらゆる面から検証し、「エトルリアのワインだ」と言える美味しいワインを自分の手で造ろうと思い、プロジェクトが始まりました。


Q. このワインのテイスティング方法を教えてください。

A. おりがあるのでワインを飲む1日か2日前にボトルを立てておいてほしいです。

内側に蜜蝋が塗ってある甕で熟成し、かつ地下に埋めているため、還元的な味わいになることがあります。そのため、飲む前にボトルをあらかじめ開け、空気に触れさせてください。最低でも10〜15分前、できれば30分ほど開けておくのが理想です。また、グラスに注ぐ時は量を少なめにしてみてください。ワインが開きやすくなります。

舌のあらゆる味覚を感じる部分がワインに触れるように口に含み、塩味、酸味、渋みなど余すことなく感じてほしいです。このワインは「生きているワイン」なので、味が変化していきます。


Q. 今はどのような活動をしていますか?

A. 「共有」という取り組みに挑戦しています。

世界遺産登録には三つの条件が必要で、そのうち活動を広めることが最後の要件となっています。そこで、私は組合のような団体を立ち上げ、考古学者とともに自分のワインづくりの方法を共有する活動を行っています。

現在、基準を満たした5つのワイナリーが加盟しています。加盟ワイナリーがそれぞれ自立して醸造できるようになった段階で、ユネスコへの申請を行う予定です。加盟の条件としては、樹齢60年以上の木を所有していること、農薬などを使用していないこと、大規模すぎないこと(大規模では細かな気配りが行き届かないため)、単一品種のみの畑ではないこと、などが挙げられます。

また、エトルリア人にとってワインを飲むのは単なる「液体を飲むこと」ではなく、栄養を摂るためのものでした。さらに、食・ワイン・音楽は生活に欠かせない存在でした。そのため現在は、ワインづくりを教えるだけでなく、音楽も体験できるような取り組みも行っています。

この「共有」の活動が認められることで、私は自分がワインというイタリアの歴史の一部になっていくのだと感じています。

最後に

テイスティングの際に乾杯したのですが、その際「25年の歩みの中で、ここまで来ることができて本当に嬉しく思います」と語った言葉の重みがとても印象的でした。

今後はローマ時代のワインも復活させたい、そしてそうしたワインを美味しいと感じてくれる人が増えたら嬉しい、とモンディーニ氏は話しています。会話を通じて、彼の活動とワインに対する揺るぎない熱意を感じました。

困難を乗り越えてようやくリリースされたこのボトルは、単なる飲み物ではありません。ワインを味わいながら古代へ思いを馳せる、そんなロマンティックな時間を私たちに与えてくれます。いつもとは少し違った視点でワインを楽しんでいただければ幸いです。

Francesco mondini(フランチェスコ・モンディーニ)氏
ヴィナム 2019

ヴィナム 2019

古代エトルリア人から受け継ぐ地中熟成ワイン。年間の生産量がわずか400本の、大変貴重なワインです。

¥22,000(税込)

商品ページへ

ワイナリー情報はこちら