イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.87 素焼き壺で地中熟成させた
年間400本限定の希少ワイン

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、トスカーナ州の「タラソナ・ミリアム」が手がける「ヴィナム2019」をご紹介します。

ヴィナム2019 今回ご紹介するのも、新入荷のワインです。当コラムで、87本のイタリアワインを味わい、そのたびに一つひとつの個性に驚かされてきましたが、今回のワインは“希少性”という意味では群を抜いています。蜜蝋で覆われた栓を抜くと、「おやっ、これは……?」と思うような唯一無二の香りが、部屋じゅうにフワーッと広がっていきました。

 その秘密は、素焼き壺による地中熟成にあるようです。なんと、このワインは「イタリアで紀元前のワイン造りを再現する」という壮大なプロジェクトのもと造られ、年間生産量400本のうちの希少な1本です。

 紀元前2000年頃、あるいはさらに以前からワイン造りの原型があったとされるイタリアへ、本格的なブドウ栽培の技術を伝えたのが、ギリシャ人とエトルリア人といわれています。この古代エトルリア人の醸造技術の研究が、2000年からイタリアで始まりました。

素焼き壺 ローマのヴィッラ・ジュリア博物館の関係者をはじめ、考古学者、地質学者、農学博士などの協力を得て、トスカーナ中心部のワイナリー「タラソナ・ミリアム」が実践。ワインを地中に埋めて熟成させるための素焼き壺、その内部を断熱するための蜜蝋と樹脂など、必要なものをすべてそろえてワイン造りがスタートしました。そして醸造を始めて15年後、ようやく最初のボトルをリリース。古代エトルリア人にならったワイン造りをする、イタリア国内で唯一の造り手です。

 素焼きの壺と聞いて思い浮かべるのがジョージアのワイン造りで、クヴェヴリと呼ばれる素焼き壺を使った伝統的なワイン造りが2013年、ユネスコの世界無形文化遺産に登録。それと前後して、日本でも非常に注目が集まっています。ワイン造りの発祥については明確な答えがなく、「一説によると」という前置きが必要ですが、紀元前6000年頃にジョージアのコーカサス山脈から黒海にかけての地域で始まったとも考えられています。

地中に埋めた壺と生産者 そんな歴史のロマンが背景にある「タラソナ・ミリアム」のワインは、9月末に手摘みしたブドウを素焼き壺に入れ、天然樹脂と自社の蜜蝋で断熱し、深さ3mの地中で12か月熟成させて造られています。地中に埋めることで土壌のミネラルが加わり、アロマ豊かな味わいに。サンジョヴェーゼ、カナイオーロといったトスカーナでよく栽培されるブドウに、「小さなチェリー」を意味する土着ブドウ「チリエジョーロ」などをブレンドし、ブドウ由来の味わいを引き出します。

 色調は、深いルビーレッド。香りは、ダークチェリー、ブルーベリー、シナモン、ローリエ、なめし皮、そして、蜜蝋や樹脂に由来する蜂蜜や松、ヨーグルトのようなニュアンスもあり、非常に深く広がりがあります。アタックには力強い果実味、続いて酸とタンニンが追いかけっこするように口いっぱいに広がり、ドライチェリーやカカオ、ヨーグルトなどが混じり合った旨味をともなって長い余韻が続きます。

ワインと料理 複雑で密度の高いワインに、黒毛和牛モモ肉のステーキを合わせてみました。すりおろした玉ねぎに漬け込んでから焼き上げ、みじん切りした玉ねぎをバターで炒めたソースをあしらい、シャリアピンステーキ風に。玉ねぎに漬け込むことでやわらかさを増した、あっさりとした赤身肉が、ワインの素直な味わいを引き立てます。ソースに使ったバターがワインの蜜蝋の香りに沿って、まろやかさを増すのもいい感じです。

 味わう15分から30分ほど前に抜栓し、室温になじませるのがおすすめ。生命を育む「土」の力強さを秘めながら、身体の隅々にいきわたっていくようなナチュラルな味わいに、古代から人々を魅了し、生活に根付いてきたワインの魅力をあらためて感じました。コレクションにもおすすめの1本です。

参考文献:『日本ソムリエ協会 教本2023』


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