イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.89 シチリアの土着品種をブレンド
夏のバカンスを夢見て楽しむ1杯

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、シチリア州の「オットヴェンティ」が手がける「クビラ 2022」をご紹介します。

クビラ 2022 日増しに太陽が高くなり、まもなく夏至を迎えます。北国育ちの私には、早くも盛夏のような暑さに感じられますが、東京の夏はまだまだこれから。決して暑さに強いタイプではないのに、夏の休暇の行き先に、ついつい思い浮かべてしまうのは南の島です。

 イタリア最南端かつ最大の州といえば、地中海に浮かぶシチリア島。西側はシチリア海峡を挟んでチュニジアに面しており、サハラ砂漠から吹く南風「シロッコ」が到達するほどアフリカに近く、非常に温暖な気候です。

 「オットヴェンティ」は、まさにシチリア西端のトラパーニ県エリチェに位置。夏は暑く、冬でも温暖な気候、石灰質と粘土質の混ざった土壌が、パワフルで肉付きの良いワインを生み出します。

ブドウ畑 地中海最大の島として交通の要衝であったことから、さまざまな文明が花開き、イタリアの中でも独自の文化を持つ州として心惹かれるシチリアですが、多数の民族が行き来したことで、その土着ブドウの豊富さにも目をみはるものがあります。


 そんな「シチリアらしさ」を存分に楽しめるのが今回のワインで、使用するブドウはシャルドネのほかは、カタラット、グリッロ、ジビッボと固有品種が名を連ねています。カタラットはシチリアで最も多く栽培される白ブドウで、シチリアの酒精強化ワイン「マルサラ」の原料とされてきました。フレッシュな香りでアルコールの高いワインを生みます。グリッロもマルサラの原料に使われ、やはりアルコールが高め。ジビッボはモスカート・ディ・アレッサンドリア(マスカット)のシチリアでの呼称で、非常にアロマ豊かなブドウです。

ブドウ グラスに注ぐと、白桃やパイナップルなど甘いフルーツの香りがゆたかに広がり、火打石のようなミネラル香も特徴的に感じられます。口に含むと、はじめはレモンのようなすっきりとした味わいで、しだいに青リンゴやカモミールのデリケートさ、トロピカルフルーツの華やかさが混じり合い、後味には苦みと旨味が重なり合って食中酒にもぴったりの味わいをもたらします。

 初夏にぴったりの魚介料理「セビーチェ」を作ってみました。セビーチェは南米の料理で、細かく切った魚介類を玉ねぎ、パクチー、唐辛子などと合わせて柑橘類の果汁でマリネしたもの。ここではイタリア風に、パクチーの代わりにバジルを使い、たっぷりのレモン果汁でマリネしました。

 魚介には白身魚をはじめ、タコやエビなど何を使っても良さそうですが、私は鮮魚売り場で目が合ったカンパチを使いました。薄切りにして、玉ねぎ、ミディトマト、キュウリ、セロリとともに、細切りのバジル、おろしにんにく、塩、フレッシュレモン、オリーブオイルでマリネして15分ほど置きました。

ワインと料理 フルーティーな白ワインをお刺身に合わせると、えぐみが出てしまうなど難しく感じますが、マリネにすることで簡単に解決。漬け込み時間を短くして、ふっくらとしたカンパチの食感をそのままに、レモンが魚介の臭みを消してスッキリとした味わいになり、ワインと上手につないでくれます。ワインのミネラル感が、磯の香りに寄り添って、シャキシャキと歯応えのある野菜も初夏らしい表情。初夏のおもてなしにもぴったりの爽やかな一皿となりました。

 この夏のシチリア行きは、またしても儚い夢に終わりそうですが、イメージトレーニングは十分にできました。いつの日か訪れられることを夢見て、行きたい土地のワインを切符の代わりに並べてみるのも楽しいものです。皆さんも、夏休みの計画をリアルでも妄想でも、ぜひ楽しんでみてください。


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