「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の「ヴィーニャ・トラヴェルソ」が手がける「モスカート・ローザ2016」をご紹介します。
「マスカットの熟れた実を一粒つぶすだけで、甘美な花のアロマを感じる」。
ワインのアロマについて書かれた本の「バラ」の項目を読んで、この記述にグッときました(原書房『ワインを楽しむ58のアロマガイド』より)。
マスカットの香りを嗅ぐと、果実から甘いシロップが滴り落ちるシーンが頭に浮かびます。濃密な甘い香りと、その奥にある、ほんのり緑がかったような匂い。心地よさに頭の芯がしびれるような感覚を覚えますが、言われてみると、バラの芳香によく似ているのだと気が付きました。
イタリア語では「モスカート」で、ピエモンテからシチリアまで、イタリア全域で栽培されています。「モスカート・ビアンコ」を使ったピエモンテの甘口白ワインDOCG「アスティ」は日本でもポピュラーな銘柄ですね。
一方で、「モスカート・ローザ」はとても珍しい品種。北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州とフリウリ州でのみ栽培されているそうです。呼び名も、色ではなく香りに由来するそうで、いわば「バラの香りのマスカット」。なんだかロマンティックですね。
今回ご紹介する、モスカート・ローザ100%のデザートワインは、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の「トラヴェルソ」によるものです。ワイナリーがあるのは、スロヴェニアと国境を接するコッリ・オリエンターリ地区のプレポット。石灰性粘土と砂質石灰岩が交互に層を成す「ポンカ」と呼ばれる土壌がブドウにいきいきとした活力を与え、とても評価の高い産地です。
そんな風土に魅せられ、ヴェネト州に次いで、この地にワイナリーを立ち上げた「トラヴェルソ」。栽培が難しいとされるモスカート・ローザに愛情を注いで造り上げた渾身の一本に、期待がふくらみます。
摘み取ってから乾燥させたブドウと、遅摘みでアロマを凝縮させたブドウを用いて、果皮を漬け込むスキンコンタクトの方法で、しっかりと風味が引き出されます。
ほんのり桜色をしたワインは、バラの花びらの芳しい香りに、ラズベリーやイチゴのチャーミングな香りが入り混じって、春の訪れにウキウキする今の気持ちにピッタリです。口当たりはトロリとなめらかで、蜂蜜や白桃のような密度の高い甘さのあとに、いきいきとしたマスカット・フレーバーが弾むように広がっていきます。酸味が後味を引き締め、余韻は長く、最後まで美しく上品な味わいです。
このワインの持ち味を生かすには、フルーツやチーズ、スイーツとのペアリングが良さそうです。クリームチーズに、ありあわせのドライフルーツを混ぜてクラッカーにのせた即席おつまみは、柑橘ピールとクリームチーズの酸味がワインの甘味を引き立て、いい感じです。蜂蜜は添えずにドライフルーツの自然な甘味を生かしたほうが、ワインの果実味がより引き立ちました。洋酒の効いたドライフルーツのケーキのあと、ワインをひと口含むと、上質なシェリーのような濃厚な味わいになり、また違った表情を見せてくれます。
北イタリアの「バラのマスカット」のエキスをギュッと凝縮したデザートワインは、色も香りも味わいも優美そのもの。食後酒にはもちろん、夕暮れのアフタヌーン・ティーがわりの1杯にもよく似合います。少し冷やして、すっきりと上品なフレーバーをぜひ楽しんでみてください。
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