「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、トスカーナ州の「ヴァル・ディ・トロ」が手がける「レヴィレスコ 2019」をご紹介します。
中部イタリアのトスカーナ州。ブドウ畑やオリーブ果樹園が織りなすパッチワークのような緑の丘陵地帯を背景に、食卓に並ぶのは、牛肉のグリルにチーズ、手打ちパスタ、フレッシュトマトとバジリコのサラダ……もちろん、その傍らには美味しいワイン! ワインの色は赤、品種はサンジョヴェーゼ……と、想像はしだいにズームインしていきます。
そのくらい、サンジョヴェーゼの赤ワインはトスカーナを代表する存在で、これはイメージばかりでなく、数字からもわかります。州のワイン生産量のうち、赤ワインが占める割合は87%。イタリア政府が認定する11のDOCG(統制保証原産地呼称)のうち、サンジョヴェーゼ主体のものは、ブルネッロなどの改良品種も含めると8種類にのぼります。
さて、このサンジョヴェーゼですが、中部イタリアを中心にイタリアの多くの州で栽培され、土壌や気候を反映して、土地ごとに個性が出やすいのが非常に面白い点です。グラスの中に、その土地の光景が浮かんだとき、「あっ」と思わず嬉しくなってしまいます。
今回、際立って感じ取ることができたのは、「塩味」でした。「レヴィレスコ」はサンジョヴェーゼ100%で、DOCGは「モレッリーノ・ディ・スカンサーノ」。サンジョヴェーゼ主体のDOCGとしておそらく最も知名度の高い「キャンティ」が内陸にあるのに対し、海岸近くに位置しており、トスカーナ州のサンジョヴェーゼ生産地としては最南端のエリアです。
ひと口に海岸近くといっても、「モレッリーノ・ディ・スカンサーノ」の生産地域は広く、西側の海岸エリアと東側の内陸側では味わいが異なります。「レヴィレスコ」のサンジョヴェーゼは、とりわけ海岸に近いグロセートの街にある畑で、化学肥料を使わず有機栽培で育てられたもの。イオニア海からの風と火山性石灰質の土壌、そのテロワールを最大限に引き出し、情熱を込めて造られたワインは、いきいきとした感動の味わいです。
グラスに注いだときに広がる香りは、とてもフルーティーで華やか。ダークチェリー、ラズベリー、ドライプルーン、ヴァニラ、松の実など、香りのボリュームがしっかりしています。口に含むと、果実の豊かな甘味、キラキラと弾けるような酸、舌の上でじわじわ主張するタンニン、そして塩味を伴った独特の旨味があり、長い余韻が続きます。
フレンチオーク樽で10カ月の熟成を経て、さまざまな要素がなめらかに調和した味わいは、まさに至福です。重厚というよりは、パワフルで伸びやかな飲み心地を、フレッシュなサラダに合わせて楽しんでみたいと思います。
用意したのは、ロメインレタス、ベビーリーフ、マッシュルーム、焼き色を付けたブロックベーコン、クルトン、半熟卵。ドレッシングは酸味が強くなりすぎないよう、オリーブオイルにバルサミコ酢を少々、24カ月熟成のパルミジャーノ・レッジャーノをあしらって完成です。
ポイントは、熟成感のある赤ワインに負けないよう、味わいのしっかりした食材を選び、ロメインレタスの苦み、マッシュルームの土の香り、ベーコンとチーズの熟成感と塩味など、ワインのキーワードにもつながる風味を散りばめた点です。ワインの味わいを下支えする熟成感と塩味が、複雑味のある食材と寄り添って濃厚な旨味をさらに引き立て、ベリー系の酸味と甘酸っぱいフルーツの香りがよりチャーミングに弾けて、ワインの輪郭がくっきりと際立つようなペアリングになりました。
ワインの味わいを心に留めながら、一つひとつの食材の風味、香り、食感を吟味して、ちょっとご馳走サラダに仕立てるのも楽しい時間です。甘味、酸味、苦味、塩味など、私たちの食卓はなんと豊かな味覚にあふれていることかと驚きつつ、イタリア各地の風土を反映したサンジョヴェーゼの奥深い味わいに思いを馳せたひとときでした。
※本文中のデータは『日本ソムリエ協会 教本2023』を参照しました。
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