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Vol.75 モンタルチーノを世界的銘醸地へ
先導者の技秘めた渾身のブルネッロ

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、トスカーナ州の「アマンティス」が手がける「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2016」をご紹介します。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2016 ワインファンが大事そうに発音する「ブルネッロ」という響きと重なり合う優美な芳香に、思わず目を閉じて味わいたくなる「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」。その背景にある物語を知ったなら、このワインをさらに好きになってしまうと思います。

 トスカーナ州シエナ県にあるモンタルチーノ村の周辺は、もともとは甘口白ワイン向けの生産地で、イタリア国内で消費されるワイン造りの拠点でした。そこへ19世紀中ごろ、フィロキセラという害虫の被害が生じ、地区の畑は壊滅状態に陥ります。

 そんなとき、「ビオンディ・サンティ」という造り手がサンジョヴェーゼの変異種を見つけ、地区の再生のため、その新種の栽培に情熱を注ぎました。村を離れた生産者も多いなか、残った生産者らとともに栽培・研究に取り組んだ結果、しだいに注目されるようになります。やがて「ブルネッロ」と名付けられ、この地区のワインは「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」として、1980年にはイタリア政府によってDOCG(統制保証原産地呼称)に認定されました。

ブドウ畑 いまでこそワイン好きから熱く支持され、生産者数250を数える銘醸地は、草創期の生産者たちの試行錯誤の賜物といえるでしょう。DOCGを満たす条件は厳しく、サンジョヴェーゼ・グロッソ(ブルネッロ)種を100%使用、収穫年を含めて5年を経過した翌年の11日以降の出荷が認められ、その間に2年の木樽熟成が義務付けられています。非常に長い年月をかけて醸造され、瓶詰後も長期熟成に耐えうるポテンシャルを秘めており、コレクターからも注目される存在です。

パオロ氏 アマンティスの醸造を担うパオロ氏は、先述したビオンディ・サンティ社で醸造長を務めた経歴を持っています。その腕前は、ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー2013で世界第2位に選ばれたほど。アマンティスで手けるブルネッロは、フレンチオーク大樽で醸したのち、小樽で24カ月、瓶内で18カ月、じっくり熟成して醸造されます。

 グラスに注ぐと、落ち着いた深みのあるルビーレッドの色調で、チェリー、レッドカラント、深紅のバラ、ヴァニラ、黒胡椒、杉・ヒノキなどの多彩な香りが広がります。

 口に含むと、アタックは落ち着いていて、澄んだ酸に包まれた濃厚な果実味と旨味が、しだいにボリュームを上げていくような印象。溶け込んだタンニンが後味にじわじわと広がっていき、非常に長い余韻を生みます。ボディに厚みと力強さがありつつ、全体がなめらかに調和したエレガントなワインです。

 寒い日が続くので、コトコト煮込む料理が恋しくなります。和牛ひき肉のボロネーゼソースを煮込みながら、手打ちタリアテッレを作ってみました。手打ちパスタは意外と簡単で、ここでは強力粉と卵のみを材料に、フォークで混ぜ合わせてまとめ、生地を少し寝かせてからパスタマシーンでカットすれば完成です。

パスタ作り ボロネーゼソースは、ひき肉をローズマリーとセージとともに水分を飛ばすようにじっくり炒め、冷凍保存してあるソフリット(ニンニク、セロリ、タマネギ、人参のみじん切りをオリーブオイルでじっくり炒めたもの)、赤ワイン、カットトマトを加えて小1時間ほど煮込みました。美味しさへの近道に、市販のフォンドボーも少々加えて。

料理とワイン 旨味を閉じ込めた牛ひき肉に、ワインの熟成感とタンニンが穏やかに寄り添い、落ち着いた調和の中に、ベリー系のフレーバー、スパイスのニュアンスが美しいアクセントをつけます。適度な重厚さはあるものの、エレガントな華やかさが身上のワインに、揚げナスを添えてみずみずしさを、バジルで気品ある風味を添えたのがポイントです。

 バレンタイデー、送別シーズンなど、贈り物の機会が増えそうな季節ですね。ロマンを感じる誕生秘話とともに長期熟成の味わいに酔いしれたい「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」は、大切な人へのプレゼントやおもてなしにも、ぜひ選んでいただきたい1本です。

参考文献:『日本ソムリエ協会 教本2023』
渡辺順子著『教養としてのワイン』(ダイヤモンド社)



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