イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.69 赤ワインも新たに注目のフリウリで
手間ひまかけたパワフルなメルロー

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の「ヴィーニャ・トラヴェルソ」が手がける「ソットカステロ・ロッソ FCO 2015」をご紹介します。

ソットカステロ・ロッソ FCO 2015 フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州は、ヴェネト州に隣り合うイタリア北東部の州で、北はオーストリア、東はスロヴェニアに接しています。 

 ワイン造りの歴史は古く、古代ローマ時代に栄えたアクイレイアという町には、ワイン造りに関する資料が残されているそうです。また、当時有名だったワイン「プルチヌム」は、グレーラの先祖であるという説も。なお、グレーラを主体とするカジュアルな発泡性ワインDOC「プロセッコ」は日本でも人気で、その産地はヴェネト州からフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州にもまたがっています。

 個人的には、州都「トリエステ」の名前を聞いて思い出すのが、イタリア文学者・翻訳家で随筆家の須賀敦子が残したエッセイ「トリエステの坂道」です。その中で、「イタリアにありながら異国を生きつづけるこの町のすがた」(『トリエステの坂道』新潮文庫より)と描写されるように、ハプスブルク帝国の港として繁栄した歴史から、ウィーン風の建築やカフェが随所に見られるそうで、いつか訪れて歴史とワインと文学を肌で感じてみたいと思っています。

 さて、ワインに話を戻すと、固有品種が非常に豊かな州で、白ブドウを代表するのはフリウラーノ、リボッラ・ジャッラ、ピコリットなど。また、特筆すべきは白ワインの生産量の割合で、76%が白ワインを占めています(2020年)。白ワイン人気が州をリードしてきた一方で、近年は赤ワインも注目され、固有品種のレフォレスコやスキオッペッティーノのほか、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローにも注目が集まっています。

ブドウ畑 今回の「ソットカステロ・ロッソ」はメルロー100%。これまでのメルローのイメージを覆す、独自の味わいに驚かされました。

 色調はやや黒みを帯びた濃厚なルビーレッドで、よく熟れたブラックベリーやダークチェリーなどの甘酸っぱいフルーツ、カンゾー、クローヴ、枯れ葉、ビーフジャーキー、カカオ、とさまざまな香りが広がります。アタックは力強く、舌を覆うようなタンニンと心地よい苦み、甘くスパイシーな香りが鼻に抜け、後味のスッとメントールのような酸味が印象的です。

 タンニンが豊富でパワフルなワインとして名を馳せるカベルネ・ソーヴィニヨンに対し、メルローはどちらかというと円みがあってふくよかなイメージ。ですが、このワインはメルローにしてはかなりパワフル、それでいてエレガントな要素も持ち合わせています。

セラー 収量の低い樹齢50年の木から収穫するメルローは、エキス分がギュッと凝縮。果皮を漬け込む「スキン・コンタクト」と果汁を抜いて果皮や種子を空気に触れさせてから戻す「デレスタージュ」を行いながら、醸しとアルコール発酵ののち、バリックでマロラクティック発酵後、18カ月間の熟成、12カ月間の瓶内熟成を経てリリースされます。

 栽培から醸造まで、ブドウの持ち味を最大限に引き出し、なめらかに熟成させたメルローのワイン。ステーキに合わせるなら、一般的に脂肪分の多いものはカベルネ向き、赤身肉がメルロー向きと言われますが、このメルローなら脂肪分の多いものでも負けずに調和するのでは。2種類を試してみました。

料理とワイン 霜降りの肩バラ肉はミディアムレアで、ステーキ用のハラミは香ばしく焼いて、ともにサラダの上にあしらい、ハーブミックスソルトとパプリカパウダーを仕上げに散らしました。

 肩バラのきめ細かでとろけるような肉質を、タンニンがキュッと引き締め、後味の上品な酸味が口の中をさっぱりとしてくれ、なかなか見事な組み合わせです。

 ハラミは噛み応えのしっかりとしたワイルドな旨味で、こちらに合わせると大輪のバラが開花するように、ワインの華やかな持ち味が引き立ちます。もうひとつ、よい組み合わせだったのは、スライスしてサラダに加えた生マッシュルーム。芳醇なキノコの香りとメルローの熟成香が妖艶に響き合います。

 寒くなると恋しくなる、脂肪分の多い肉類やバターソースといったコクのある料理もしっかり受けとめ、身体の芯からじわじわと温めてくれるようなパワフルな赤ワイン。年末年始の特別な席でも堂々と主役を張れる1本です。


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