イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.71 アマローネの陰干しブドウが
優美に香る伝統の「リパッソ」

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、ヴェネト州「ヴィラベッラ」の「ヴァルポリチェッラ・クラシコ ・スペリオーレ・リパッソ 2018」をご紹介します。

ヴァルポリチェッラ・クラシコ ・スペリオーレ・リパッソ 2018 イタリアワインには分類や製造方法を表す独自の用語があり、耳慣れないと難しく感じるかもしれませんが、覚えておくと楽しみが深まります。今回のワインはイタリアワイン用語が満載なので、覚えるチャンスと捉えて解説にお付き合いいただければ幸いです。

 まず、「ヴァルポリチェッラ」は、ヴェネト州ヴェローナの北に位置する丘陵地帯ヴァルポリチェッラで造られるDOCワインの名称。ブドウ品種はコルヴィーナ・ヴェロネーゼまたはコルヴィノーネを45%以上95%以下、ロンディネッラとその他の黒ブドウで構成されます。

ブドウ畑 同じエリアで似通った品種構成で造られるワインに、DOCG「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」とDOC「ヴァルポリチェッラ・リパッソ」があります。今回の「リパッソ」を紹介するうえで、まずは「アマローネ」の説明が欠かせません。

 「アマローネ」はブドウを陰干し(アパッシメント)して造る辛口ワインのこと。アパッシメントにより、ブドウのエキス分を凝縮させて糖度を高め、アルコール度数の高いリッチなワインが生まれます。その代名詞といえるのが「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」で、高級ワインとして不動の人気を誇る存在なのです。

アマローネ そして、前年アマローネに使った圧搾後のブドウを、ワインに漬け込んで再発酵させる製法を「リパッソ」といいます。「呼び戻し」を意味するヴェネト州の伝統製法で、陰干しブドウの凝縮感をアマローネよりもリーズナブルに楽しめるのが人気の秘密です。

 なお、「クラシコ(クラッシコ)」は、古くからそのワインを生産していた特定の地域を指す言葉で、キャンティ、ヴァルポリチェッラ、ソアヴェなどの銘柄に使われています。なかでも「キャンティ・クラシコ」という呼び方は、日本人の私たちにも馴染み深いかもしれません。歴史的背景として、サンジョヴェーゼを主体にしたトスカーナ州の赤ワイン「キャンティ」が、あまりの人気のために生産エリアが広がっていき、それらと区別するために本来の産地が「キャンティ・クラシコ」を名乗るようになったという流れがあります。

 「スペリオーレ」は規定のアルコール度数を超えたワインを指す言葉で、ワインによっては熟成期間が規定される場合もあります。なお、「リゼルヴァ」という用語もあり、こちらは既定の熟成期間を上回るワインを指すもの。どちらの場合も、ワインの種類によって基準が異なります。

ワインイメージ さて、お勉強はこのくらいにして、ワインをグラスに注いでみましょう。深いルビーレッドの色調で、よく熟れたダークチェリーやプラム、赤いバラの花びら、オレンジピール、クローヴ、ブラックペッパーなど、華やかでスパイシーな香りが広がります。

 口当たりはソフトで、果実味が非常に豊か。バルサミコ酢のような酸味が際立っていて、のど越しにタンニンをしっかりと感じ、苦みが舌に残ります。スラヴォニアンオーク樽で熟成されているため、樽由来のフレーバーもあり、華やかな第一印象に比べて複雑な後味が、このワインをいっそう魅力的なものにしています。

 お料理は、バルサミコやお醤油の風味を取り入れたお肉料理がよさそう、と考えて買い物に行きました。スーパーの産地直売野菜のコーナーにカラフル人参を見つけて衝動買い。力強い大地の味わいも受け止められる骨格のあるワインなので、グリル野菜をたっぷり添えた鶏肉のソテーを作ることにしました。

料理とワイン 多めの油で皮目をパリッと焼き上げた鶏肉は塩コショウのシンプルな味付けに、人参は皮付きのまま、ほかの野菜とともにオーブンでグリルして、素材の旨味をそのまま生かします。バルサミコ、醤油、オリーブオイルに、刻んだブラックオリーブとアンチョビを加えたドレッシングを作り、複雑な風味を添えました。

 ふっくらジューシーな鶏肉に、バルサミコの甘酸っぱい風味とワインの綺麗な酸味が素直に寄り添い、苦みやタンニンが後味にじわじわと広がって、旨味のしっかりとしたペアリングになりました。皮つきの人参はとても甘く、ほのかな土のニュアンスとワインのスパイシーな味わいが、野性味あふれるハーモニーを奏でます。

 ヴェローナが誇る高級ワイン「アマローネ」の風味を余すことなく味わい尽くす、先人のアイデアから生まれたような「リパッソ」。地元の人たちのワインへの愛情がじんわりと心に染みて、幸福感に包まれる飲み心地です。


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※こちらのワインは「読むワイン」で紹介されたヴィンテージとは異なります。風味や特徴に若干の違いがある可能性がございますのでご了承ください。