イタリアワインの魅力をお伝えします読むワイン

Vol.80 北イタリアの風土を閉じ込めた味わい
バローロの造り手によるピノ・ネーロ

 「レアーレカンティーナ」では、イタリア各州の造り手を訪ね、味わい、厳選したワインだけをラインアップしています。今回は、ピエモンテ州「ロッカ・ジョヴァンニ」の「トマーソ 2020」をご紹介します。

トマーソ 2020 抽象画のようなエチケットが目を引く「トマーソ」。まぶしい光に目を細め、まぶたの裏で木々と花々と空の色が混ざり合って見えたときのような、明るい色合いに春を感じます。 

 春に似合う赤ワインといえば、どんな味わいを思い浮かべますか? 寒さが和らぐにつれ、重厚なものから、やや軽やかなものへと惹かれていくなかで、透明感があり繊細な味わいのピノ・ノワールは、春に似合う品種ではないでしょうか。イタリアではピノ・ネーロと呼ばれ、スプマンテ(発泡性ワイン)や赤ワインに使われています。

 「トマーソ」が面白いのは、ピノ・ネーロを使いながら、フランスのブルゴーニュや他の国のものにはない、北イタリア・ピエモンテらしい個性が、香りと味わいにしっかり現れている点です。

ブドウ畑 造り手の「ロッカ・ジョヴァンニ」はイタリアきっての高級赤ワイン「DOCGバローロ」を手がけ、「バローロ5大産地」のひとつとされるモンフォルテ・ダルバ村にワイナリーを構えています。今回の「トマーソ」は、ひとつ格下の「DOCランゲ」にカテゴライズされるワイン。「DOCGバローロ」や「DOCGバルバレスコ」も含む広いエリアにまたがり、赤、白、ロゼ、フリツァンテ(微発泡)、パッシート(陰干し甘口ワイン)など認定されるワインのスタイル、ブドウ品種が非常に多様なDOCです。

 「トマーソ」は、収穫したピノ・ネーロを10日間マセラシオン(醸し)したのち、ポンピング・オーバーの手法で果皮や種子の成分をしっかり抽出し、フレンチオーク樽で14カ月熟成されます。

セラー グラスに注ぐと、淡く落ち着いた色調のルビー色で、香りは、レッドカラント、ラズベリー、クローヴ、シナモン。樽由来のバニラとベリー系の香りが入り混じったチェリーのキャンディのような甘い香りも感じます。

 口当たりはソフトで、綺麗な酸味が溶け込み、タンニンはやわらか、かつ存在感があります。チャーミングというよりも、エキス分がしっかりとした辛口のワインで、熟成によってなめらかさを増したエレガントなスタイルです。

 この独特の味わいは、「バローロ」や「バルバレスコ」などネッビオーロのワインに重なる部分を感じます。同じ風土で育ち、ブドウに反映された気候風土のせいか、ワイン造りのスタイルゆえか、バローロの造り手らしさ、ピエモンテらしさが現れていて、このワインにしかない希少性を感じます。

チーズとワイン 熟成チーズとは、とても相性がよさそうに思いました。パルミジャーノにあわせてみると、シャリッとした食感と熟成に従って丸みを帯びた塩味、その心地よい味わいを、熟した果実の風味が際立たせます。青カビチーズ・ゴルゴンゾーラは、ねっとりと奥深い旨味を、辛口の味わいの奥にあるふくよかなブドウの甘味が優しく包み込むようです。

 チーズを使った料理も作ってみました。アスパラガスとベーコンのグラタンは、ベシャメルソースにゴルゴンゾーラをたっぷり混ぜ、仕上げにパルミジャーノをあしらい焼き上げます。シャキシャキと歯ごたえを残して茹で上げたアスパラガスの青い香りに春を感じ、鼻に抜けるゴルゴンゾーラの風味がクリーミーなソースの個性に。グリーンの味わい、青カビの複雑な風味を、ピノ・ネーロが春風のように優しいトーンで寄り添い、後味に際立つ酸がキリッと美しい印象を残します。

料理とワイン まだ寒さの残る3月、明るい景色を待ちわびながらゆっくり春を待つ、北イタリアの暮らしが浮かんでくるような味わいのピノ・ネーロ。しみじみと楽しみたいワインです。


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